KITANO NOEN STORY
女王水なすの物語
― 種を採るために、育てる実がある ―

夏の終わり、北野農園の畑には、出荷されない実があります。
艶やかな紫の皮は色を失い、茶褐色から黄土色へと変わっていきます。
これは「食べるための実」ではありません。
来年の命を繋ぐために、最初からそうして育てています ――
私たちは、その実を「女王水なす」と呼んでいます。
CHAPTER 01
二つの栽培 ― 接ぎ木と、実生
泉州水なすの主流は、接ぎ木栽培です。
病害に強い台木に水なすの穂を継ぐことで、収量が安定し、栽培もしやすくなります。
北野農園でも、皆様の食卓へお届けする水なすの多くは、この接ぎ木栽培で育てています。
けれど、種を採るための母株 ―― 女王水なすの株だけは、実生栽培でなければなりません。
接ぎ木では台木の血が混じり、自家採種で繋ぐ意味が薄れてしまうからです。
台木を通さず、水なす本来の根で、土から栄養を吸い上げます ――
少し手間のかかる選択ですが、自家採種で次の世代を育てるためには、
どうしてもこの方法でなければなりません。
日々の出荷を支える接ぎ木の畑と、未来へ繋ぐ実生の母株。
北野農園には、二つの栽培が共にあります。
在来の血を絶やさないために ――
泉州の土と空気で育まれてきた水なすを、そのまま、来年へ。
CHAPTER 02
選ばれて、残される ― 女王水なすの育て方

種採り用の株を見極め、その株が結ぶ実の中でも、姿・形・力のあるものを「女王」に指名します。
周りの畑で通常の水なすが次々と収穫されていくなか、女王の株は出荷をせず、
選ばれた実を、ただ木に残し続けます。
通常の出荷から1〜2ヶ月。
木の養分を一身に受けて、ゆっくりと熟していきます。
紫の皮は色味を変え、茶褐色から黄土色へ。
皮は固くなり、果肉は緩み ――
そのすべてが、中の種を成熟させるための時間となります。

CHAPTER 03
種を採り、繋ぐ ― 来年の畑へ

充分に熟したころ、女王水なすを枝から外して、割ります。
果肉の中には、来年の畑になるはずの種がぎっしりと詰まっています。
水で果肉を洗い流し、種だけを取り出して、風通しのよい場所でゆっくり乾かします。
乾いた種は、紙袋や瓶に入れて、年号と圃場名のラベルを貼り、
冷暗所で来春までの眠りにつきます。
そして来春、その種から芽が出ます。
実生の苗が畑に並び、また夏が来て、また女王水なすが選ばれます ――
一年では終わらない物語が、こうして毎年、ひとつ年を重ねていきます。
CULTIVATION CYCLE
命の循環カレンダー
― 女王水なすから採れた種が、翌年の泉州水なすになる ―
女王水なす ― 種取専用・実生・約3株
- 翌1月 実生のまま(接ぎ木せず)育てた苗を定植します。
- 3〜8月 生育・開花。5月ごろ受粉させ、1枝に1果ほど残して充実させます。
- 9月 完熟した実を種採り用に収穫し、採種します。
- 9月後半 採った種をまき、実生のまま育苗 → 翌1月の定植へ(次の母株へ)。
泉州水なす ― 生産販売用・接ぎ木・約5000株
- 9月後半 女王水なすから採った種を、約5000株まきます。
- 11月 台木に接ぎ木します。
- 12月 育苗します。
- 翌1月 ハウスへ植え付け、泉州水なすのシーズンが始まります。
- 春〜初夏 収穫スタート、収穫・出荷(9月ごろまで)。
この2つを毎年並行して育て、女王水なすで種をつなぎ、泉州水なすを出荷しています。
2025年9月、女王水なすから種を採り、その秋のうちに苗床へ撒きます。
冬を越えた苗が、翌2026年2月の畑に植え付けられて、
春から夏にかけてじっくりと生育し、また秋に女王水なすになります。
F1種が主流の今、自家採種を続ける農家は少なくなりました。
効率だけを考えれば、必要のない選択かもしれません。
それでも私たちは、毎年、女王水なすを選んでいます。
この土地で受け継がれてきた泉州水なすの味を、
自分たちの手で繋いでいくために。
― 北野農園 ―
