泉州水なす・水なす漬の北野農園 北野農園の感謝メッセージ

2023.11.23 / 大阪府立弥生文化博物館

泉州水なすの歴史を、博物館でお話しさせていただきました

大阪府立弥生文化博物館 企画展会場

2023年11月23日、大阪府和泉市の大阪府立弥生文化博物館で、令和五年度秋季企画展「泉州地域の食と暮らし」の一環として、泉州の水なすについて基調講演をさせていただきました。

同じ日に、吉見早生たまねぎの復活について田尻町事業部産業振興課課長の加藤様がお話しされ、その後を受ける形での登壇。お話ししたのは、水なすの歴史と、巾着系・中長系についてこの10年ほど掘り下げてきたことです。

なぜ、一つの野菜を
そんなに深く調べるのか

正直に言うと、最初から「研究しよう」と思って始めたわけではありません。

毎日畑に立って、苗を見て、土に触れているうちに、
「この品種は、いつから、誰が、どういう想いで残してきたんやろう」という疑問が、少しずつ積もっていっただけなんです。

調べるほどに、水なすという野菜は単なる作物ではなくて、泉州の気候、水、土、そこで暮らしてきた人たちの工夫や祈りがぎゅっと詰まった「記録」のようなものだと気づかされました。

講演会場のようす

探求の副産物として
得たもの

品種のことを追いかけていたつもりが、気づけばもっと広い景色が見えるようになっていました。

古い農家さんに話を聞きに行くと、お茶が出て、漬物が出て、昔の畑の話になって、戦前の水路のこと、家族のこと、村の寄り合いのことまで、時間をかけてゆっくりと聞かせてくださる。

効率で考えたら、「何時間も何を聞いてたんや」と思われるかもしれません。でも、その時間そのものが、いま自分にとって一番の財産だと感じています。

野菜は土からだけで育つのではなく、人と人のあいだにある「時間」や「信頼」からも育っている。そんなことを、品種を追いかけることで教わりました。

講演で使用した資料

聞いてくださった
75名の方へ

この日、会場には75名の方が足を運んでくださいました。真剣なまなざし、熱のこもった質問。正直、話している途中でテンションがめちゃくちゃ上がってしまったのを覚えています。

講演後の質疑応答では、刺激的な質問がいくつも飛び交いました。「あの時代の泉州では、どんな形の水なすが主流だったのか」「巾着と中長で、食べ方の違いはあったのか」――そんな一つひとつの問いに答えていくうちに、私自身が、新しい学びと気づきをたくさんいただきました。

普段は畑で水ナスや大阪春菊と向き合っている身なので、公の場でお話しする機会はめったにありません。だからこそ、聞いてくださる方々の温度がそのまま伝わってくる、とても濃密な時間になりました。

質疑応答のようす

一人では
できなかったこと

講演の約1週間前から、畑の生産はスタッフや家族に任せて、資料の整理と、これまで集めてきた情報の組み立てに集中しました。

畑を空けられたのは、「行ってきて大丈夫よ」と引き受けてくれた家族がいて、「こっちは任せてください」と背中を押してくれるスタッフがいてくれたから。

この講演は、私一人の成果ではなくて、まわりのみんなが日々積み上げてくれている土台の上に、たまたま私が立たせてもらった――そういうものだと、心から思っています。

会場のようす

「探求」が
現代にくれるもの

スピードと効率が求められる時代に、一つの野菜を10年以上かけて調べ続けることには、もしかすると経済的な合理性はあまりないのかもしれません。

でも、掘り下げていくほどに見えてくるのは、土との対話、先人の工夫、地域の記憶、家族や仲間との時間――どれも、お金では測れないけれど、暮らしの根っこを支えてくれるものばかりです。

「探求」そのものよりも、その副産物として手に入る、ゆっくりとした時間や、人との縁や、少しずつ積もっていく「ああ、そういうことやったんか」という気づき。そういうものこそが、いま、私たちの暮らしに一番足りていないものなんじゃないかと、会場を見渡しながら、ふとそんなことを考えました。

大阪府立弥生文化博物館

これからも

こうやって農業現場で感じていることを整理して、お伝えする機会は、自分自身の背筋が伸びる、とても大切な時間でもあります。

また同じような機会をいただけるように、畑に立ち続けて、野菜と、土と、地域と、ゆっくり対話していきたいと思います。

足を運んでくださった皆さま、お声がけくださった大阪府立弥生文化博物館の皆さま、本当にありがとうございました。

北野農園 北野忠清